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    アーカイブ メディア展望 2025年11月号 井坂 公明
    書評 沼田 清著「昭和の報道写真秘話 戦争前後を中心に」(公益財団法人 新聞通信調査会=2200円)
     関東大震災で皇居前広場に避難した群衆のパノラマの復元にこぎ着けた経緯や、原爆投下直後の広島市街の焼け野原のパノラマを作成したいきさつなど、貴重な報道写真をめぐる秘話が満載の本だ。
     著者は共同通信写真部一筋で、定年後は嘱託として資料写真の掘り起こしと裏付け調査に専念してきた。それを通じて見えてきたのは「戦前から昭和20年代初めまでの新聞写真の実相と、通信社写真部の歩み」だという。その中核を成すのが、1945年の終戦を挟んだ激動の1年の同盟通信(共同通信と時事通信の前身)写真部の活動だ。
     本書は、新聞通信調査会の月刊誌「メディア展望」(2016年9月号から24年11月号)に29回にわたり掲載された記事に、その後分かった新事実などを加筆したもの。報道写真で振り返る戦前から戦後初期にかけての昭和史とも言えよう。
     まず驚いたのは、45年8月15日の終戦の日をめぐる「やらせ」写真の存在だ。二重橋の前で皇居の方に土下座したり、腰を折って頭を下げたりする市民の姿を捉えた2枚の写真。1枚は大阪朝日新聞15日付朝刊(写真説明は「国体護持を祈りつつ宮城前広場に涙のお詫びをする民草」)などに、もう1枚は16日付の京都新聞などに掲載された。
     しかし筆者らの調査で、いずれも同盟通信が15日より前に撮影し事前に配信していたものであることが分かった。2枚の写真には同一の女性2人が写っており、「同じ時間帯に一定の演出の下で」撮られたものと判断できるという。事前配信されたこの2枚の写真が合計12紙で使用されたのに対し、15日の玉音放送以後に撮影された真正の写真は4紙に掲載されるにとどまった。
     戦前・戦中における日本政府、戦後はGHQ(連合国軍総司令部)による報道統制・検閲は、本書の隠れたテーマの一つだ。1945年9月27日の昭和天皇とマッカーサー元帥の会見写真は米軍カメラマンの撮影によるものだが、同盟通信が28日午前に入手して配信。東京新聞(当時夕刊紙)が同日夕に他紙に先駆けて報じたところ、内閣情報局から発売禁止処分を受けた。追い掛けようとした朝日、毎日、読売報知の3紙も発行禁止命令を出された。しかし、GHQが29日午前、言論制限の全廃を政府に命じ、発禁処分は取り消された。マスメディア統制の力が政府からGHQに移った瞬間だった。
     「敗者は映像を持たない」―。1968年、ドキュメンタリーフィルム「大東亜戦争」を作った映画監督・大島渚が日本側の記録映像の不足を嘆いた言葉だ。これには敗者側の上層部が自らの映像・写真を処分してしまうという側面もある。本書には、敗戦の直前に軍から命じられ、同盟通信写真部が社屋のある市政会館周辺でフィルムや乾板を焼却・破棄する写真が載っている。こうして勝者の目から見た写真・映像だけが残り、敗者のそれは歴史の闇に消えていくのだろう。
     共同通信が同盟通信などから引き継いだ膨大な戦前の報道写真のうち、写真説明で5W1Hを満たしているものは少ないという。きちんと調べて的確な説明が付けば資料価値が出てくる。本書でも、原爆投下から1年後の広島市で、ビルの屋上から一面焼け野原の市街地を見下ろす若いカップルの写真の解明に著者が取り組み、4年余りかけて写っていた男性にたどり着いた奇跡のような話が披露されている。写真の裏付けは地道な作業であるが、今後の進捗にも期待したい。



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