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アーカイブ サンデー毎日 倉重篤郎のニュース最前線 2025/11/29 重 篤郎
倉重篤郎のニュース最前線 高市「嫌中」政権に知中派保守から重大な懸念 元国家公安委員長、野田毅・日中協会会長が注目発言
高市早苗首相の台湾有事発言に発する日中双方の非難の応酬は、中国側が日本への渡航自粛、水産物輸入停止を通告する事態にまで至った。関係の動揺は予断を許さない局面となっている。今や数少ない「知中派保守」の野田毅氏が、日中和平の歴史的な知恵を携えて直言する。
自重もまた外交の知恵/1972年国交正常化時の対日賠償請求権放棄を想起せよ
高市早苗首相の台湾有事発言(11月7日)に端を発した日中間の非難の応酬が続いている。前号では、中国の駐大阪総領事の暴言SNS投稿(8日)に対し、自民三役から「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」指定をして事実上退去処分とするよう求める声が出た(11日)ところまで紹介した。
やはり、というか、そこでは止まらなかった。中国外務省は13日、孫衛東外務次官が金杉憲治駐中国大使を呼び出し「厳正な申し入れと強烈な抗議」を行い、答弁撤回を求めたと発表した。一方、船越健裕外務事務次官は14日午後、呉江浩駐日中国大使を呼び出し、抗議、中国側が「適切な対応」を取るように求めた。
中国外務省は14日夜、当面日本への渡航を自粛するよう呼びかけ、中国教育省が16日、日本への留学を慎重に検討するよう国民に注意喚起した。17日に予定していた日本の民間団体「言論NPO」と中国国際伝播(でんぱ)集団の「日中共同世論調査」の結果発表が、中国側の要請で延期となった。19日には日本の水産物輸入再停止を通告してきた。
この報復のエスカレーションは、一刻も早く断ち切られなければならない。両国国民感情を徒(いたずら)に逆撫(さかな)でし、予期せぬ刃傷沙汰の温床を作るだけではない。報復のグレードを機械的に上げていくことによって、引き返しのつかない事態に両国を追い込むことだってありうる。台湾海峡、尖閣領域、朝鮮半島という係争地域に囲まれ、超大国米中が覇権競争で火花を散らす、かつてない厳しい安全保障環境にある日本だけに、火種は早期消火に限る。
政治の出番である。政治とは妥協である。譲歩である。問題を起こした側が一歩前に出て事態収拾する責任がある。古い話ではあるが、中曽根康弘政権時代の1986年8月、中曽根氏が終戦記念日の靖国参拝をあえて避けたことがある。前年の公式参拝に対し中国側の反発が激しく、中曽根氏が肝胆相照らす関係にあった胡耀邦総書記の中国共産党内での政治的立場が悪化するとの情報があったからだ。中曽根氏は稲山嘉寛経団連前会長を密使に中国側の本音を探り、両国関係改善、胡氏の改革開放路線応援のため、自らリスクを取って参拝断念の決断を下した。
ことほどさように、嫌中、反中感情の強い国民世論向けに勇ましい格好をしているだけでは、一将功成りて万骨枯る、である。冷静に見るべきだ。この報復戦、カードの持ち札は圧倒的に中国有利だ。最後はレアアース禁輸まで出かねない。成算なく軍事的緊張を高めるばかりだと、日本を真の意味での「存立危機事態」に陥らせることになる、と前号で警告したとおりだ。
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