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    アーカイブ 月刊ニューメディア 2022年4月号 水野 泰志
    東京五輪反対デモをおとしめた?!
     NHKにまたも「捏造疑惑」が浮上
    Mizuno's EYE メディア激動研究所代表・水野泰志
     NHKの「捏造疑惑」といえば、2014年の「クローズアップ現代」の出家詐欺をめぐる「事件」が思い起こされるが、新たに浮上した疑惑は、コロナ禍の中で開催反対が7割にも上った東京五輪をめぐって「カネで買われた反対デモ」を視聴者に印象づけようとしたともいわれるだけに、比較にならないほど影響が大きく、罪は深い。再発防止策が全く機能しなかったことは、局を上げて反対運動をおとしめようとする意図があったのではないかという疑念をもたらした。菅義偉・前政権が決行した東京五輪を全面支援してきたことを顧みれば、「みなさまのNHK」は「政府のお抱え放送局」に成り下がってしまったように映る。
     問題となった番組は、21年12月26日に放送されドキュメンタリー「BS1スペシャル・河瀬直美が見つめた東京五輪」。2020東京五輪の公式記録映画の総監督を務める河瀨直美さんに密着取材し、五輪をさまざまな視点から見つめようという企画の番組だ。
     映画制作スタッフが五輪反対派の声を聞く場面で、顔にぼかしの入った匿名男性が登場し、映像では話していない「五輪反対デモに参加している」「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」という字幕が入った。つまり、「五輪反対デモは、カネによって動員されていた」というのである。まさに反対派を誹謗中傷するものだった。
     年が明けた1月9日、番組を制作したNHK大阪放送局は、当該男性の発言が、実際には「過去に(五輪以外の)デモに参加したことがあり、金銭を受け取ったことがある」「今後、五輪反対デモに参加しようと考えている」と、字幕とはまるで似て非なる内容だったことを明かし、「男性が五輪反対デモに参加した事実は確認できなかった」として「字幕の一部に不確かな内容があった」と謝罪した。
     事実と異なる字幕をつけた原因については「制作担当者が、男性が五輪反対デモに参加したと思い込み、事実関係を確認しなかった」と釈明した。
     「虚偽放送」だったことは認めたものの、「捏造の意図はなかった」と強弁したのである。
     だが、単なる「思い込み」や「確認ミス」で片づけるには、事態はあまりに深刻だった。
     この後、前田晃伸会長やNHK幹部が陳謝を繰り返したが、まるで他人事のよう。「謝罪すれば許される」という意識が透けて見え、五輪反対運動を愚弄したコトの重大性を理解していないようにさえ見えた。しかも、事実関係の説明は二転三転し、真相をきちんと明かそうとしない姿勢に、世論の反発は強まった。
     「字幕事件」が起きた背景には、NHKには五輪礼賛の空気が局全体を覆っていて反対運動には冷ややかだったことから、反対デモの理不尽さを訴えて五輪支持を広げる世論操作を狙ったと推測する向きもある。番組制作の意図や過程はともかく、事実を歪曲して放送した以上、「捏造」と断定されてもしかたないだろう。
     NHKは、必死になって「捏造」を否定するが、あまりにも不明な点が多すぎる。
    ・番組に登場する取材対象者はどのようにして選んだのか
    ・匿名にもかかわらず当該男性を起用したのはなぜか
    ・担当ディレクターはなぜ当該男性のデモ参加を確認せずに字幕を入れたのか
    ・番組のチェック体制はなぜ機能しなかったのか
    ・「複眼的試写」や「匿名チェックシート」の再発防止策はなぜ活用されなかったのか
    ・河瀬直美総監督はNHKが謝罪するまでなぜ沈黙していたのか
    などなど。
     NHKは1月末になって調査チームを立ち上げ、2月10日に担当者らを懲戒処分にした。だが、「トカゲのしっぽ切り」では真相究明はおぼつかない、第三者が加わって、徹底的に事実関係が検証されなければならない。
     放送番組・倫理向上委員会(BPO)の小町谷育子・放送倫理検証委員長は、「頭の中に疑問符がいっぱい」と真相究明を強める構えだけに、期待したい。
     今やNHKの信用はガタ落ちで、「字幕事件」は歴史的な不祥事に発展しつつある。五輪反対デモに関わった人たちも受信料を払っている「視聴者」であればこそ、「公共放送」の看板を降ろさざるを得なくなるような大事件といっても過言ではないことを、NHKは肝に銘じなければいけないだろう。



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