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    アーカイブ 月刊ニューメディア 2023年7月号 水野 泰志
    20年有余で半減、自治体の4分の1はゼロ
     「街の本屋さん」がどんどん消えていく
    Mizuno's EYE メディア激動研究所代表・水野泰志
    1万店を割り込んだ全国の書店数
     「街の本屋さん」が全国で急速に姿を消している。この20年余で半減、自治体の4分の1でゼロになってしまった。本離れ、ネット書店の伸長、電子書籍の普及、過疎化など、さまざまな要因が複合的に絡み合って、出版物の需要が激減しているためだ。書店の衰退を危惧する自民党の議員連盟が4月末に政策提言をとりまとめたが、ネット社会において書店という存在をあらためて見つめ直すことが求められている。
     全国の書店の数は、1980年代には2万5000店を超えていたが、2000年代初めに2万店を割り、その後、右肩下がりで減少し、20年には実店舗がついに1万店を割り込んだ。
     出版文化産業振興財団が22年9月にまとめた調査によると、実店舗は8582店。全国1741市町村のうち、書店がまったくない自治体は456(26.2%)に上った。このうち、市レベルこそ792市のうち17市(2%)にとどまっているが、町は743町のうち277町(37%)、村になると183村のうち実に162村(89%)で消えてしまった。1店しかない自治体も334(19.2%)あり、「街の本屋さん」が2店以上ある自治体は、もはや半分しかない。人口減少が続く地域ほど書店の廃業が続き、「書店空白地帯」が広がっているのが実情だ。理事長の近藤俊貴トーハン社長は「このさき10年、今と同じ状況が続けば、ほとんどの書店はなくなってしまう」と訴える。
    書店議連が第一次政策提言
     こうした書店の窮状を踏まえ、自民党の「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟(書店議連)」が4月28日に第一次政策提言書をとりまとめた。そこでは、「書店は単に本を販売するだけではない。書架に並ぶ『未知の本との出会い』が、来訪者の視野を広げ、潜在的な関心を呼び起こす」とリアル書店とネット書店との違いを強調、「書店がなくなることは、日本の文化の劣化につながる」と危機感をにじませた。
     そのうえで、具体策として「ネット書店の値引き販売や図書館の過剰な蔵書を是正するルールづくり」「書籍購入を促進するクーポン券の配布」「流通効率の向上や万引き防止のためのICタグの活用」「助成金など包括的な支援制度の創設」などを挙げた。
     確かに、書店の存在意義は、指摘の通りだろう。たまたま手に取った本が、人生に影響を及ぼしたケースは少なくないかもしれない。
     だが、それはあくまでマスメディア全盛時代の認識であって、ネット時代において同じ視点で論じることには違和感がある。書店議連の提言も対症療法的で、「出版不況」から抜け出す起死回生策とは言いにくい。
    ネット時代にも生き残る書店像は何か
     読書習慣は様変わりしている。スマートフォンで電子書籍を読み、ほしい本があればネット書店で購入する。多くの情報はネットで得られるし、直近ではAI(人工知能)のChatGPTも有用になった。とくにデジタルネイティブのZ世代(1990年代半ば~2010年生まれ)は、日常的に新聞や雑誌・書籍の印刷メディアに触れる機会が少ないため、書店の敷居が高く、近くに「街の本屋さん」がなくても、少しも困らないのだ。
     だが、ネットの世界は万能ではない。興味をもつ情報ばかりに囲まれるエコーチェンバーや、見たい情報しか見えなくなるフィルターバブルなど、ネットの弊害を駆逐するために、「未知の本」と出合えるリアル書店はきっと有効だろう。
     書店が、ネット時代にも生き残ろうとするなら、「出版文化」という言葉にとらわれず、新たな文化的価値を創造する場に生まれ変わるしかない。たとえ、それが多難な道であったとしても。



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