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    アーカイブ 月刊ニューメディア 2023年9月号 水野 泰志
    NHK、ネット配信の功を焦って“自爆
       浮き彫りになったガバナンスの劣化
    Mizuno's EYE メディア激動研究所代表・水野泰志
     NHKがネット配信を認められていない衛星放送(BS)番組の予算を計上した問題で、NHKのガバナンス(企業統治)が劣化している実態が浮き彫りになった。「ネット」が「放送」と同様に「本来業務」に格上げした場合に、きちんと規律が守れられるかどうか、放送界や視聴者の間に疑念が広がっている。ネット業務のあり方を検討している総務省の有識者会議のとりまとめも当初の予定よりずれ込みそうで、NHKは功を焦って“自爆”してしまった。
    信じがたい事の経緯
     BS番組のネット配信の予算化問題は、2022年12月に、前田晃伸・前会長が伊藤浩・前専務理事ら執行部の一部の幹部だけで計らい、23年度予算に、NHKの「インターネット活用業務実施基準」に反していることを承知で、24年春の実施を念頭にBS番組配信の設備調達費など約9億円を盛り込んだ稟議書を決済したことに始まる。
     その後、理事会にもかけず、最高意思決定機関の経営委員会にも説明せず、監督官庁の総務省にも報告せず、予算書は23年3月末に国会で承認されてしまった。チェックするタイミングは何度もあったにもかかわらず、素通りになってしまったのである。
     稲葉延雄・現会長や井上樹彦・現副会長が事態の重大性に気づいたのは4月に入ってから。実施基準で認められていない業務の支出をすれば受信料の目的外使用を禁じた放送法に違反するため、あわてた執行部は内部調査にとりかかり、BS配信関連予算の執行を停止。当該予算をBS配信以外の支出に費目修正する苦肉の是正策を取った。一連の経緯を経営委員会に報告したのは5月16日、総務省に説明に上がったのは29日だったという。、
     この間、NHKは自ら情報を開示せず、新聞各社が5月30日付朝刊で一斉に報道して、視聴者はNHKのガバナンスがほとんど機能していないことを初めて知ることになった。
     NHKが、再発防止策を検討する弁護士らによる「専門委員会」を設置したのは、6月21日。発覚してから2カ月半も経っていた。内部での処理にとどめようとしたものの、激しい批判にさらされ、やむなく外部に委ねざるを得なかった様子がうかがわれる。
    露呈したお粗末な対応ぶり
     今回の不祥事は、NHKの意思決定のプロセスも、発覚後の対応も、お粗末極まりないことを露呈してしまった。
     背景には、12月に始まるBS放送統合による1波削減で衛星放送契約の減少を危惧したなど、さまざまな理由が語られているが、NHKに課せられたルールを侵していいことにはならず、まさにガバナンスに大きな問題があったと言わざるを得ない。
     NHKは、かねてからネット事業の展開にあたって業務・受信料・ガバナンスの三位一体改革を求められてきたが、いよいよ「本来業務」に格上げする議論が決着しようとするタイミングで起きたガバナンス問題は、最終的な着地のあり方やその後のネット受信料問題に暗い影を落とすことが避けられそうにない。
     不祥事の深底から浮かび上がってくるのは、NHKの会長に民間企業から放送界とは無縁の人材を3年交代で起用する現状だ。日本の放送界は、NHKと民放、さらに新聞など報道機関との微妙なバランスの上に成り立っている。こうした力学に疎い民間人に、短期間で巨大NHKの舵取りを求めるのは酷だろう。
     本欄では、稲葉会長の就任時に、前途を不安視したが、早くも的中してしまった。
     基本ルールを軽視した前田・前会長に、きちんと国民に説明しない稲葉会長、その会長に引き立てられ追従する幹部たち…。彼らに足りないのは、国民のために存在すべきNHKへの強烈な愛情ではないだろうか。



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