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アーカイブ 月刊ニューメディア 2024年4月号 水野 泰志
Mizuno's EYE メディア激動研究所代表・水野泰志
楽天グループの三木谷浩史会長兼社長が1月末、大赤字が続く楽天モバイルの損益分岐点の目安とされる800万契約を、年内にも達成できると自信を示した。巨大なお荷物となっている携帯電話事業の業績が好転すれば、楽天グループが反転攻勢に転じる目算が立つ。NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクの寡占市場に殴り込みをかけ、格安料金競争を仕掛ける楽天モバイルへの期待は大きい。だが、三木谷氏の思惑通りに、契約数が急速に伸びるかどうかは予断を許さない。
楽天市場の参加者向けに開いた「楽天新春カンファレンス2024」で記者団に囲まれた三木谷社長は、楽天モバイルの契約数が2023年末に600万回線を突破した実績を踏まえ、「通信エリアのカバレッジが他社と遜色なくなり、解約率が他社と変わらないようになってきた。非常に順調にいっている」と、契約数の急増を自賛。「楽天グループは90万社と取引がある。積極的に営業し、個人にも広げていきたい」と、強みの法人契約をテコに、楽天市場や楽天トラベルなど楽天経済圏とのシナジー効果で個人契約を増やしていく作戦を披露した。
さらに、「5月からプラチナバンドを投入していく」と、新たに獲得したばかりのつながりやすい700MHz帯のサービスを前倒しで提供する方針を表明した。当初の開設計画では「2026年3月」、割り当て時は「2024年中」としていた。「安くて使い放題」に加えて「つながりやすさ」をウリに新規契約者の取り込みを図る狙いだ。
そのうえで、加入者数について「2024年には800万を軽く上回らなくてはいけない」と、採算ラインとしている800万契約が24年中に達成可能との見方を示した。確かに2023年秋から、純増数が毎月20万件前後を記録しており、この傾向が続けば年内達成は現実味を帯びてくる。
プラチナバンドのサービスを早々に提供するといっても、事業計画は今後10年間で544億円を投じて全国に1万局超の基地局を整備するというもの。つまり、劇的に通信品質が改善されるわけではなく、直ちに契約数の増加につながるとは考えにくい。
今や携帯市場は、契約数で2億回線を超えており、この1年間でも約1000万回線増えた。楽天モバイルが採算ラインに乗ったとしても、800万回線は市場全体の4%にも満たない。NTTドコモの約8918万回線、KDDIの約6691万回線、ソフトバンクの約5368万回線(いずれも23年12月末時点)に比べれば、微々たる数字でしかない。
しかも、競争の舞台は、単なる通信サービスから金融などさまざまなサービス連携に移っている。NTTドコモはマネックス証券を子会社化し証券事業に本格参入、KDDIもグループの金融サービスとの利用特典を掲げる「auマネ活プラン」をスタート、ソフトバンクは決済サービス「PayPay」を軸にさまざまな金融サービスを展開している。 サービス連携による顧客囲い込みは、もはや楽天のお家芸とはいえず、ライバル各社の追い上げは激しい。
好調な電子商取引(EC)や金融事業の利益を携帯事業が食い潰す楽天グループの台所事情は、厳しさが増すばかり。携帯事業の設備投資のために発行した社債の償還も、今後2年間で約8000億円に上る。綱渡りの資金繰りが続く中、楽天モバイルの黒字化は待ったなしだ。
政府も後押しする第4勢力が潰えては元も子もない。24年は楽天にとっても、携帯市場にとっても、勝負の年になろう。
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