一般社団法人メディア激動研究所
     Media Gekidou Institute
 
ホーム
 
研究所概要
 
研究員
 
論考等
 
アーカイブ
 
連絡先
 
    アーカイブ 月刊ニューメディア 2024年5月号 水野 泰志
    民放AMラジオ、廃止へカウントダウン
    「ワイドFM」の受信端末の普及はまだ5割
    Mizuno's EYE メディア激動研究所代表・水野泰志
     「民放AM(中波)ラジオの2028年廃止・FM(超短波)転換」に向けてカウントダウンが始まった。全国47社のうち、まず13社が2月から順次、試験停波に踏み切り、リスナーの反応や社会的影響の検証に入った。だが、転換後のFM放送を受信できるラジオの普及率はまだ5割程度で、予定通りに進むかは見通せない。一方で、番組のネット配信サービス「Radico(ラジコ)」や「ポッドキャスト」が広く浸透し、ラジオの聴取手段は多様化。ラジオ界は歴史的転換点を迎えている。
    AMからFMへの転換の狙い
     AMラジオ各社は2021年6月、AM放送からFM放送への転換に向けたロードマップを公表し、44社が「2028年秋までにFM局となることを目指す」という方針を明らかにした。今回の試験停波は、目標実現に向けた実証実験の第一歩となる。
     第1弾は、2月1日からIBC岩手放送など4社。次いで、5日にはRKB毎日放送など7社もスタート、7月から東海ラジオ放送、8月から北陸放送が順次加わり、最長で2025年1月31日まで放送を休止する。山口放送のように県内全域で停波する社もあれば、一部の中継局だけで実施する社もある。
     AMを廃止する最大の理由は、老朽化した送信所の建て替え費用をまかない切れないからだ。用地の確保が難しいうえに、親局だけでも20億~25億円という巨費がかかる。これに対し、FMなら3000万~4000万円程度で済むという。電波の届く範囲が狭くなるため、より多くの中継局が必要になるが、それでも総費用は比較にならない。しかも、すでに難視聴や災害対策としてAMと同じ番組を流す「ワイドFM(FM補完放送)」(90.0~94.9メガヘルツ帯=従来のFMは76.1~89.9メガヘルツ帯)を提供しており、新たな設備投資は極力抑えることができる。
    既存FM周波数と異なる「ワイドFM」
     AMラジオの営業収入は、1991年度に2000億円を超えていたが、今や6割以上も激減。赤字体質から抜け切れないAM各社にとって、FM転換は事業継続のための切り札と期待されている。つまり、FM転換は、送り手側の都合なのだ。
     実際、リスナーにとって、どれほどのメリットがあるだろうか。周波数の特性から「トークのAM、音楽のFM」といわれるが、主要リスナーのドライバーやシニア層が「音質」にこだわるとは思えない。むしろ、古いラジオは「ワイドFM」を受信できないため買い換えざるを得ず、新たな出費を強いられるのでデメリットの方が大きそうだ。総務省の調べでは、車載や手元の端末で受信できない人は半数以上もいるという。
     また、能登半島地震では、北陸放送の輪島中継局が被災しAM、FMとも停波したが、遠方のAM中継局から電波が届き、災害時のAMの効用が再認識された。
    音声メディアの伸びしろに注目
     こうした中で留意しておきたいのは、2028年秋になったら全国一斉にAM放送を聴けなくなるわけではないことだ。FM転換は、地域の事情を考慮して47社のそれぞれの経営判断に委ねられている。
     放送エリアが広い北海道の2社と秋田県の1社は、FM転換を見送った。さらに、完全にAM停波する社もあれば、2028年以降もAMとFMを併用する社もある。ラジオ界は一枚岩ではないのだ。だから、「国を挙げて突き進んだテレビの地上放送のデジタル化と違って、業界にもリスナーにも深刻さがない」と嘆く関係者は少なくない。
     ラジオ界の迷走が推察されるが、光明は射している。スタートから15年を迎える「ラジコ」は当初、40~50歳代の男性がリスナーの中心だったが、最近は10~20歳代の若年層が増えており、伸びしろが大きい。「ポッドキャスト」のサービスを提供するラジオ局も増えている。
     1925年にAM放送が始まって、ちょうど1世紀。はたして、ラジオ界に次の100年は見えてくるだろうか。



 アーカイブ 
メディア激動研究所
 水野 泰志
  講演・出演等 
 井坂 公明
  ニュースメディア万華鏡化 
 桜井 元
  論評・エッセイ 
 豊田 滋通
  歴史 
 早田 秀人
  エッセイ「思索の散歩道」 
 水野 泰志
   PRESIDENT online 
   月刊ニューメディア 
   エルネオス 
 井坂 公明
   FACTA online
   メディア展望
 内海 善雄
  先人の知恵・他山の石 
  やぶ睨みネット社会論 
  やぶ睨みネット社会論Ⅱ 
 桜井 元
  秋田朝日放送コラム 
  ほかの寄稿・講演 
 倉重 篤郎
   サンデー毎日 
 豊田 滋通
   西日本新聞社 
 一般社団法人メディア激動研究所
Copyright© 一般社団法人メディア激動研究所 All Rights Reserved