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アーカイブ 国際観光施設協会 コラム 2024/07/10 佐野 桃子
佐野桃子の観光インタビュー パナソニック汐留美術館館長 伊藤 政博 氏
伊藤 政博 氏 略歴 1969 年 兵庫県生まれ 1992 年 東京大学卒 松下電工株式会社(現パナソニック株式会社)へ入社 2023 年 パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社 常務チーフ・ストラテジー・オフィサー(CSO)、CC 担当、 情報渉外担当 パナソニック汐留美術館 館長 現在に至る
佐野: この度は大変お忙しいところ、お時間をお取りいただき、ありがとうございました。 パナソニック汐留美術館で開催された、「フランク・ロイド・ライト展」が高い人気で、事前にきちんと予約を取らなければ入れないし、予約を取るのも大変なくらいに人気だとお聞きしました。昨年に新館長に就任された伊藤様に是非その大成功の背景をお聞かせいただけたら、とご無理申し上げてお会いさせていただきました。
伊藤氏: ありがとうございます。おかげさまで、ご不便をお掛けしました方には申し訳ありませんでしたが、入場制限をさせて頂くくらいの大人気となり、当館で開催した建築展でのご来館記録を更新し、多くのお客様にご鑑賞いただきました。 建築関係のお仕事をしている方や、建築関係の勉強をしている学生の方、それからデザイン関係の方、そしてホテル関係の方と、幅広い方々に興味を持っていただいたようです。
佐野: パナソニック汐留美術館は、フランスが誇る芸術家ルオーの絵画を収蔵していると聞いていますが。
伊藤氏: はい、その通りです。ご縁があって、ルオーの作品を何点か購入することができました。それでルオー財団の方々とのお付き合いも始まりました。 2003 年に東京に核となるオフィスを今の地に建設しようとなったのですが、弊社従業員にとっても文化的な刺激を受けることができるよう、さらには一般の方にも楽しんでもらえるような施設を作ることになりました。コレクションを少しずつ広げて、今では約 260 点のルオーの作品を所持しています。同じ時期に汐留地区に開館をした施設としては、日本の鉄道開業の地である旧新橋停車場の鉄道歴史展示室や、広告の ADミュージアムもございますが、当館も共に汐留地区の発信力を高めることに貢献していると思います。
佐野: 大変貢献していらっしゃいます。また、今回のフランク・ロイド・ライト展はとても混んでいて驚きました。
伊藤氏: 10年程前に、ニューヨーク近代美術館とともにコロンビア大学エイヴリー建築美術図書館がアメリカのフランク・ロイド・ライト財団から資料の移管を受けたことから、同図書館で進んだ調査研究を基に致しました。また 2023年は、ライトが手がけた帝国ホテル二代目本館が1923年の竣工から100年目にあたるという節目でもあり、是非、当館で記念展覧会を開催させていただきたいという思いで粘り強く財団と交渉を重ねまして、今回の開催にこぎつけることができました。何しろ膨大な資料で、様々なご関係者のご協力を頂ながら、それを上手く集約して、わかり易く展示するのは大変な作業でした。本展は巡回展で、豊田市美術館、当館、青森県立美術館へ巡回しました。 私の仕事の中 で、 企業のCSR(Corporate Social Responsibility)を進め、社会貢献を行っていくことが大切な部分を占めていますので、今回の展覧会開催もパナソニックグループにとって重要な記念碑的なものにしたいと考え、慎重に準備をして開催に漕ぎつけました。
佐野: 関係者の皆様、大変誇らしく思っていらっしゃると思います。こんなに注目度が高い展覧会もめずらしいですね。淡い色彩で細かい繊細なデッサン画が数多くありました。大バグダット計画案鳥瞰透視図なども、本当に繊細で淡い色合いで構成されていて驚きました。照明環境を整えるのがとても大変だったのではないでしょうか。
伊藤氏:照明の難しさに気付いてくださったのですね。ありがとうございます。2011 年から当美術館内は全て LED 照明にしてきました。
佐野: LED は、その当時はまだ、目に悪い照明だと言われていたのではないでしょうか。
伊藤氏: 目に悪影響を及ぼすようなものではないことが、きちんと解明されてきました。ご安心ください。当社では全国の学芸員の方を対象に美術館・博物館照明についての勉強会を定期的に開催させて頂いております。
佐野: そうなのですね。ちっとも知りませんでした。今度、是非参加させて頂きたいと思います。
伊藤氏: 照明器具のメーカーとして、今回の展示でも、作品を自然に、かつ最も美しくご覧頂くことにはこだわっております。
佐野: 良いポイントを教えてくださり、ありがとうございました。次のテルマエ展はお風呂で繋がる古代ローマの浴場と日本の銭湯の文化を比較したもので、外国人の方にとても興味深いテーマになりますね。
伊藤氏: インバウンドの方も楽しんでいただけると良いのですが。
佐野: その次はデンマークの誇る家具デザイナ―のポール・ケアホルムさんの北欧モダンデザインをテーマとした美術展をご用意しているとのことですが、テーマがダイナミックに変わるのですね。
伊藤氏: 各専門分野の学芸員がサポートしてくれているので、テーマにも変化をつけることができます。当美術館はとても恵まれていると思っています。
佐野: ところで、伊藤様はご出張も多く、全国を飛び回っているお忙しい毎日だと思いますが、ご出張などで宿泊なさったなかで、お気に入りのホテルとかリゾートがありますか。
伊藤氏: フランスのルオー財団とのミーティングがあり、3月にフランスのパリに初めて出張しました。飛行機がとても遅れて、滞在時間が限られましたが、パリは素晴らしい街だと思いました。残念ながら、火災で大きな焼失があったノートルダム寺院は修復工事の完成が今年の 12月予定ということで見学することができませんでした。リオン駅の近くにあるルオーのアトリエやルオーの部屋にはすっかり魅せられて、時の経つのを忘れてしまいました。また、凱旋門の存在感と建物の厚みには圧倒されました。大好きな街になりました。日本では、芦ノ湖や河口湖、箱根は大好きです。ポーラ美術館や岡田美術館もありますね。
佐野: 私もその 2 つの美術館は大好きです。時間をとって、ゆっくり拝見するようにしています。最後の質問ですが、伊藤様はお忙しいときやストレスがあるとき、どのように自分を取り戻していらっしゃいますか。
伊藤氏: 学生時代は陸上短距離をやっていましたが、入社を機会にやめて、そのかわりにマラソンを始めて、今もずっと続けています。
伊藤氏: そうです。最近では京都マラソンや大阪マラソンに参加しました。京都ではあいにく着ぐるみは禁止でしたが、大阪では着ぐるみで走りました。
伊藤氏: 「リラックマ」が大好きなので、その着ぐるみ姿で走ります。記録はもちろん悪くなりますが、子供たちが大勢、大歓声で応援してくれるので、とても楽しいです。先ほど話にでました、河口湖のマラソンにも参加する予定です。佐野さんは「リラックマ」をご存知でしょうか。
ひだまり暮らし リラックマ生活10絵と文:コンドウ アキ 出版社:主婦と生活社
佐野: ( 絵本「ひだまり暮らし」を手にして)初めて拝見しました。コンドウ アキさんの著作ですね。かわいいですね。メトロの中でも見かける熊さんですね。
伊藤氏: この絵本には、じつは哲学がたくさん詰まっています。行き詰った時、目の前に高い困難の山が立ちはだかる時、悲しかったり、寂しかったりして、どうしようもないとき、「大丈夫、肩の力を抜いて、リラックスして、ゆっくりして、頑張りすぎないで」と、優しく言ってくれるのです。「リラックマ」のぬいぐるみも連れてきました。
佐野: 可愛い!!私もコンドウ アキさんの絵本を読んでみます。リラックマさんを御社の「ランターナ」の上に乗せてツーショットを撮りましょうか。
佐野: 本日は本当にありがとうございました。ご活躍をお祈りしています。
インタビュー後記 伊藤さんはとても自然体でゆったりとした方、というのが第一印象でした。でも、いろいろお話を伺っているうちに、素敵なグレーのヘアスタイル、ピシッとした姿勢と視線、少しハスキーな声で良く通るお話のされかたなど、自分のブランディングをとてもきちんとなさっている方だと気づきました。そして大きな包容力を持った方。その伊藤さんがリラックマさんに力を貰っているとは!フランク・ロイド・ライト展は本当に混んでいて、入場できたのは奇跡のようなものでした。 きれいなライトのデザイン画は、まるで昨日描かれたもののようで、ライトの見ていた鳥瞰図が、きれいに浮かびあがって見えました。図録もとても充実していてライトのファンと研究者が世界中にいることがわかります。ゆっくり拝見し、勉強して楽しんでいます。 佐野桃子
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