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    アーカイブ 西日本新聞社編 書評 2023/09/30 豊田 滋通
    歴史と人への飽くなき探求心 日本史の旅人 野呂邦暢史論集 野呂邦暢著(中公文庫)
     芥川賞作家の野呂邦暢が晩年、歴史雑誌の編集責任者をしたことはあまり知られていない。雑誌は福岡市の梓書院が発行する『季刊邪馬台国』。1979年創刊で、地方では珍しく邪馬台国ブームを駆け抜けてきた老舗である。
     本書は、著者が歴史雑誌に寄稿した歴史論やエッセーなど16編を集めた異色の「史論集」。テーマは6世紀の「磐井(いわい)の乱」から中世の元寇、元禄15年の「討ち入り」、明治の「秋山騎兵旅団」創設にまで及ぶ。
     その旺盛な歴史への関心の目覚めが、巻頭の『古代史を愉しみたい方に』で語られる。戦後間もなく、小学生だった著者は長崎県諫早市で、復員した父親と丘を開墾し土器を掘り当てた。畑から出土した遺物の蒐集に没頭し「木箱にたくわえて、まじまじと見つめ続けた」という。その考古少年を、のちに邪馬台国の世界に引きずり込んだのは、島原市の作家・宮崎康平の『まぼろしの邪馬台国』。松本清張とともに第一次邪馬台国ブームの火付け役になった。
     本書には、晩年の著者が司会をした『熱論「邪馬台国」をめぐって』という座談会も収録されている。論者は、『「邪馬台国」はなかった』で知られる古代史研究家の古田武彦と数理文献学の手法で新分野を開いた元産能大教授の安本美典。「在野」の二大論客による対論は、相手の急所に鋭く舌鋒を突き込み、毒を含んだ痛罵で論敵の傷をえぐる壮絶なバトル。著者は「息詰まる七時間」と題した論評で「進行するにつれてその緊迫感は高まり、息苦しささえ感じた」と振り返る。そして、この一文を最後に42歳で急逝した。
     著者の飽くなき探求心が垣間見えるのは『古代史シンポジウム傍聴記』。東京のホテルで古代史シンポを初体験した著者は、全国から集まった聴衆に強い関心を示し、ロビーで参加の動機を聴きまくる。老紳士や中小企業経営者、髪や爪を赤く染めた30代女性らが語る古代史論に耳を傾け、司会の松本清張や演者の言説をつぶさに吟味して「邪馬台国論争の現在」を見極めようとしたようだ。
     巻末には、著者が季刊邪馬台国創刊号に書いた「巻頭言」がある。その理念は「専門家と在野のアマチュア研究家との間に横たわる深い溝の橋渡しをする」こと。「歴史は万人のものである」という結語に、「古代史の海」に船出する決意が凝縮されている。



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