一般社団法人メディア激動研究所
     Media Gekidou Institute
 
ホーム
 
研究所概要
 
研究員
 
論考等
 
アーカイブ
 
連絡先
 
    アーカイブ 先人の知恵・他山の石 IT業界 2022/05/19 内海 善雄
    第2回IP化の波には気づいていたが、、、 May 19 2022
     日本のN社や、F社、米国のルーセント、ドイツのジーメンス、フランスのアルカテル、これら世界の超一流通信機メーカーは、全て通信ネットワークのIP化の波に乗れず衰退した。 共通の理由の第一として考えられることは、これらの通信機メーカーは、NTTやATT、ドイツテレコムやフランステレコムなど既存の電気通信事業者と表裏一体となって事業を行ってきた構造そのものが災いしたことであると思う。
     日本を例に見よう。NTTは、5次にわたる5か年計画で、電話ネットワークを建設し、更にそのディジタル化を推し進めて高度化させた。戦後復興からいわゆる高度成長時代を経て、昭和60年代まで、大きな投資が続いた。その間、NTTのお抱え通信機メーカーとして、日電、富士通、沖などが、NTTと機器を共同開発し、独占的に納入したのである。常にNTTが先頭に立って技術開発をし、その技術を前提としたネットワーク設計を行い、建設計画を作成する。通信機メーカーは、共同開発という名のもとに新しい技術を入手して発注に応え、製品を製造し、納入するという体制が長年続いたのである。銀行経営の有名な護送船団方式は、大蔵省の指揮のもと、最も動きの遅い者に皆を合わせて進む方式だが、通信の世界は電電公社が通信機メーカーを引き連れて、直接、間接の指示のもと引っ張っていくという方式で、集団という点では同じかもしれないが、行動原理は真逆であった。そのエネルギーは、もっぱら独占の利益を源泉としていたと言えよう。
     米国の軍需技術を起源とするIP技術、そしてIPネットワークは、まるでがん細胞が周囲の細胞に侵食するがごとく、日本にも入ってきて一部の研究者や大学などから利用が始まった。しかし、NTTやそのグループ企業にとっては、預かり存ぜぬ別次元の世界でのネットワークの形成である。
     通信メーカーの技術者や経営者は、この新しい技術やネットワークについて無知であったとは考えられない。だが、当初、この技術が情報革命を起こし、既存のネットワークに置き換わってしまうと予想した者はいなかったのではないだろうか。後になって経営者が大変なことになると気づいたときは、すでに時遅かりしであったのである。
     しかし、大変なことになると本当に早い段階で気づけなかったのか? 
     インターネットの存在自身は、研究者や技術者の間で早くから知られていたと思う。私でさえ、通信の自由化の準備段階(1980年初め)において、既にその存在を雑誌などで知っていた。冒頭 F社会長の嘆きから、20年近くも前である。ましてや新しい技術を追っている専門家は、ARPANETと呼ばれていたころ(1960年代)からフォローしていたに違いない。インターネットの初期段階では、その将来の予測も難しかったかもしれない。だが、インターネット・プロトコル (TCP/IP) が標準化され、1980年代末、民間にもネットが開放され、営利目的のインターネットサービスプロバイダ (ISP) が出現しはじめた頃には、ほぼ現在の姿の原型が出来上がったから、その時点で、本気で立ち向かっていれば将来が予想できたはずである。
     ちなみに郵政省で初めてインターネットとWWWを導入したのは、1994年に開催されたITUの京都全権会議の直前である。当会議の議長をするため海外出張を重ねていた私は、日本との連絡に初歩的だったPCメールを使用していたので、更に進化したインターネットメールが使えなければ、世界各国から代表が参加する会議の開催はスムーズに行えないと思い、郵政省にも導入をお願いした。残念ながら、私自身はその時点では、まだWWWを使用したこともなく、ただ、メールの便利さを享受していたに過ぎず、将来の予想が十分にはできていなかった。
     既存の通信業界の中では、当然、技術的な可能性や米国で使われている様子を知っている人はいただろうが、それは少数であり、また、将来大発展すると予想をしていた人はいなかったかも知れない。たとえいたとしても、ごく少数、しかもその人たちが声を上げても、聴く耳を持っている人が周囲にはいないという状況ではなかっただろうか。郵政省が省内の通信システムを導入するにあたっては、関係の深いNTTやその関連会社にお願いするのが普通であるが、通信の専門企業とはいいがたい野村総研が、郵政省内のインターネット利用のシステムプランを構築し、サービスを開始したことだけでも、通信関連企業が蚊帳の外にあったことを裏付けていると思う。
     このようなことだから、従来の通信業界以外の企業がインターネット関連のサービスを開始するような状況までになっていても、通信業界では少数の者しか関心を持たないまま、旧来の電話関連事業を踏襲してずるずると経過し、冒頭の会長の嘆きに至ったと思える。
     だが、日本の通信業界はそれほど単純低レベルでもない。技術面では、インターネットと同じ構造のネットワークサービス、すなわちパケット網の通信サービス(パケット通信サービス)をNTTは早い段階から開発・提供していた。また、サービス面では、キャプテンと呼ばれる電話回線を利用して、誰でもが情報提供サービスを行うことができ、誰でもがアクセスすることができるシステムも、多くの企業が参加して試行されていた。今から考えると極めて初歩的な技術レベルではあったが、現在のインターネットと機能的には全く同じものを構想し、すでにサービスを行っていたのである。インターネットの普及よりは何年も前から、情報化社会を構想し、その構想を実現すべきサービスを開発し、試行錯誤を行っていたのである。残念ながら様々な理由から、それらは普及発展しなかったのだ。
     さて、インターネットの重要性に気が付いていた者がおり、また、インターネットと同じようなサービスをトライしていたにもかかわらず、なぜ、企業全体としてはインターネットに経営の舵を切れなかったのか?
     私は、次のような理由があると考える。
    ● NTTが動かない
    ● 未来を予測でき感性の良い人は少ない
    ● 新し分野の人材がいない
    ● 既に、強い競争相手がいる
    ● 高い特許料を払う必要がある
    ● コストが高すぎて成り立たない
    ● 速い決断ができない
    ● 体制(生産、営業、経営管理)を変更できない
    (次回に続く)



 アーカイブ 
メディア激動研究所
 水野 泰志
  講演・出演等 
 井坂 公明
  ニュースメディア万華鏡 
 桜井 元
  論評・エッセイ 
 豊田 滋通
  歴史 
 早田 秀人
  エッセイ「思索の散歩道」 
 水野 泰志
   PRESIDENT online 
   月刊ニューメディア 
   エルネオス 
 井坂 公明
   FACTA online
   メディア展望
 内海 善雄
  先人の知恵・他山の石 
  やぶ睨みネット社会論 
  やぶ睨みネット社会論Ⅱ 
 桜井 元
  秋田朝日放送コラム 
  ほかの寄稿・講演 
 倉重 篤郎
   サンデー毎日 
 豊田 滋通
   西日本新聞社 
 一般社団法人メディア激動研究所
Copyright© 一般社団法人メディア激動研究所 All Rights Reserved