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客員研究員・山川 鉄郎 アーカイブ フジサンケイ広報フォーラム エッセイ 2024/10/10
チェコに赴任した最初の夏休みに、いわゆる「聖地巡り」の旅に出た。グラスゴーからロンドン行きの急行に乗り、オクセンホルムで支線に乗り換える。目指したのはカンブリア湖水地方である。
子どものころ、いろんな物語を読んで遠く離れた国のことを想像した。リンドグレーン(長くつ下のピッピ)のストックホルム、ケストナー(飛ぶ教室)のドレスデン等々。なかでも最大のお気に入りは、アーサー・ランサムが書いた「ツバメ号とアマゾン号」のシリーズ。ジョン、スーザン、ティティ、ロジャの兄妹が、湖に浮かぶヤマネコ島を舞台に、小さな帆船を操って冒険をする物語だ。カンブリア湖水地方はこの物語が書かれた土地であり、「聖地」である。
湖水地方の中心はウィンダミア。そこからバスで1時間ほど乗るとランサムの世界、コニストン湖に着く。農場風景や自然のたたずまいなど今でも物語そのままの世界がそこにある。ランサム好きの旅行客のためには「ヤマネコ島ツアー」がある。1時間ほどかけてヤマネコ島(本当の島名は知らない)を一周する案内付きのツアーで、湖上からランサムの世界を満喫することができる。ゆっくり滞在して「聖地」を見て回った。
帰りにオクセンホルム駅でロンドン行きの急行を待っていた時、老夫婦に話しかけられた。ランサムの世界に浸りたくて来たというととても喜んで、いろんな話をしてくれた。「ランサムはよく知っている。実は英国情報部(MI6)の諜報員でね。奥さんはロシア革命のレオン・トロツキーの秘書だった。モデルになった子どもたちも知っている。末弟のロジャはサザンプトンに住んでいたよ」。彼らの話はとても面白かったし、そんな話が聞けたことは感動的だった。
ベネッセ教育総合研究所の読書調査(2023年)によれば、子どもの半数は本を読まない。本を読まなければ、大人になって外国の土地でこんな体験することはないかもしれないな、と考えるとなんとなく残念な気持ちになる。
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